NHKドキュメント・蘇る悪夢1973年知られざる核戦争危機」を見て

この録画を数回見たが、見れば見るほどこの世における出世や金儲けにあくせくすることのあほらしさむなしさが骨身にしみるという意味で人類必見だ。
キューバ危機というのはどなたもよくご承知のことと思う。キューバへのソ連の核ミサイル配備計画を巡る米ソのチキンレースだった。この時、互いの核のボタンに手がかかりかけたとき、ソ連が引っ込んで核戦争は寸止めで回避された。
しかしこの番組はキューバ危機のお話ではない。そのわずか11年後にですよ、同じ危険を冒している、という話。しかも同じ米ソが。歴史から人類は何も学ばないといわれているが、まさかこれほどまでとは。まさに何をかいわんやの心境になる。
それと今回このTVを見てはっきりわかったことは、国の指導者というものはチキンレースになって頭に血が上ると、核戦争は自国を含めて人類滅亡に至るという平素の危機意識を忘れてしまうということである。時代劇の丁半ばくちで行くところまで行ってすってんてんになる心境と同じだ。目の前が何も見えなくなるのである。彼らは平素偉そうなことを言っているが、結局のところ頭に血が上ると、イチかバチかのヤクザと同じなのだ。さらに、自分たち幹部だけは核攻撃から生き残れると思っていることも安易な決断を下せる大きな理由ではないかと思う。それは地下核シェルターの存在。例えば当時1973年ブレジネフのモスクワクレムリンには地下70mに幹部のための核シェルターがあり、これは核の先制攻撃を受けてモスクワがやられた時ここに籠って核報復を指揮する目的のシェルターだという。
さて、1973年の危機の発端は第4次中東戦争である。普段からにらみ合っているエジプトがイスラエルに奇襲をかけたことから始まった。その後お決まりの如く互いの後ろ盾米ソの武器の優劣をかけた代理戦争にエスカレートしていった。いろいろ経緯はあったが、この時は米ソが手を握って停戦合意が成立した。これは当時の指導者ニクソンとブレジネフのこれ以上ないような友好関係の成果であったといえる。
問題はそのあとである。約束の停戦発効時間を巡るいざこざでエジプトもイスラエルも米ソの停戦合意を無視して攻撃を継続したのである。伏線は停戦合意の米側代表者がブレジネフと友好関係にあるニクソンでなく国務長官キッシンジャーだったところにある。というのはニクソンは丁度ウオーターゲート事件で攻撃にさらされそれどころではなかったからである。キッシンジャーの二枚舌を疑ったブレジネフは頭にきて米国への核攻撃最後通告を行った。これに驚いたキッシンジャーニクソンの補佐官に取次ぎを依頼したが、なんと補佐官は「大統領は起こせない、そちらでなんとかしてくれ」の返事。というのはその時ニクソンはウオータゲートで痛めつけられ睡眠薬やら飲酒やらで判断力がボロボロになっていたからである。そんな状態で下手に会議に出して取り返しのつかない命令を出されると困ると補佐官が判断したからである。結局米ソとも大国の意地で引くに引けない事態になってしまった。まさに後数時間後に核戦争勃発という時に、ソ連とエジプトの行動に普通では考えられないような奇跡が起こって危機は回避された。核のボタンに責任のある指導者が常に理性的な状態にあるわけではないことの恐ろしさを如実に表している。
 時が進んだ現在を見てみよう。冷戦は終わったが核はより広範囲に拡散して、中国、北朝鮮が参入する複雑な様相を呈し、偶発的な開戦の起こる可能性は当時以上にあるのではないだろうか。トランプ大統領は最近異常とも思える親イスラエル路線である。実際、イスラエルにはトランプこそ死海文書で再来が予言されている救世主だと信じる人たちさえいるといわれている。ロシアは今も中東に介入するつもりか分からないが、シリアやイランが力をつけて第5次中東戦争になった時どうなるのか。北朝鮮が絡んだ時は後ろ盾として今や軍事核大国中国が出てくるし、これらを一手に引き受ける米国にその力は残っているだろうか。仏の顔は三度まで見れるというが、神様は三度目も奇跡を起こして滅亡をとめてくれるだろうか。それとも、甘ったれるなと見放されるか。