ゴーン事件

ゴーン氏はいわゆる有能な経営者であることは間違いないだろう。ルノーの時のことは知らないが、少なくとも辣腕を発揮して日産を倒産状態から立て直したのは事実だから。

しかし私は以前からこの「辣腕」にはいい感情を抱いていない。辣腕イコール社員の首切りに過ぎないと思っているからだ。実際日産でも2万人以上の首を切った。こんなことくらい、冷徹非道な経営者ならゴーンさんでなくてもだれでもできると思っていたのだが、少なくとも日本人には絶対できないことらしい。

今朝の朝日新聞「声」欄への日産元社員の投書で「辣腕」を高評価されている記事を興味深く読んだ。「私はゴーンさんと入れ違いに日産を離れたものです。ゴーンさんが来られる前からリストラは始まっていましたが徹底しておらず、ゴーンさんが来なければ間違いなく倒産していたでしょう。工場閉鎖で2万人のリストラ、系列企業との悪弊を断つ。日本人にできる手法ではありません。本当にあなたは日産の救世主でした。」

しかしである。「辣腕」が受け入れられるためには大事な条件があるのではないか。それは辣腕をふるう人自身が清貧・無私であることである。少し古いがかつての東芝経営者土光氏のように。辣腕経営者であると同時に私生活では「メザシの土光さん」と親しまれていたように思う。

いい悪いは別にして、ゴーン氏はそれとは対極の人だ。好む人もいるかもしれないが、私は好まない。

少なくとも彼は晩節を汚した。今後レバノンを出国できないだろう。レバノンは今国が倒産状態で失業率は30%、汚職賄賂の国だそうである。大統領になって日産の時のように辣腕をふるって立て直してくれとの声に期待してのレバノン入りだったかもしれないがそんなにすんなりいくだろうか。SNSの市民の声はそんなにやさしくないようだ。イスラエル入国罪での身柄拘束や暗殺の恐れさえささやかれている。日本にいたほうが安全だったと悔やむ時が来るかもしれない。

日本では「無罪請負人」の異名をとる最強弁護士がついていたのだから無罪になる可能性はかなりあったのではないかと思える。日本で頑張って、無罪の箔をつけて返り咲けば会社経営でもレバノン大統領でもいくらでも英雄道の道は開けていたのに、と思う。悪いが、こういうのを「不徳の致すところ」といいたい。