アフガニスタンの診療所から(中村哲著) 

件名の本が復刻された。筑摩書房ちくま文庫)。原著は1993年。なので、中村医師のアフガニスタンの初期~中期の活動記録である。現在もそうかもしれないが、赴任された1980年代、現地の目立つ疾病はハンセン氏病、つまりらい病である。治療の専門医の皆無の状態で患者はなすすべもなく外見の後遺症の生ずるままに放置されていた。心を痛めた中村医師は、自身急遽ハンセン氏病治療の技術を習得して現地医療スタッフの育成と共に専門御診療所を開設治療に当たった。おりしもアフガニスタンは米ソ冷戦の代理戦争のごとき民族紛争の最中で、核兵器以外のありとあらゆる兵器の活躍の場であったと書いておられる。

現地住民の一般的な疾病は広範な感染症。死亡原因の第一位は群を抜いて下痢症、ついでマラリア結核、アメーバ症、リーシュマニア症。問題は医療技術の極端な富の偏在で、一般住民は無医村状態である。「先進技術を移植すれば発展が期待できる。」という楽観論は1960年代に砕かれている。」という認識のもとに現地主力部隊の育成を中心に据えた息の長い活動を展開された。その基本思想が2000年以降の用水路の建設に繋がっていると思う。

「真剣に考えればぞっとするような問題でさえ、21世紀に向けてだの、グローバルだの、地球にやさしい、だのという流行語で、うわべを装って安心しているのが日本の現状だと思えて仕方がないのです。アフガニスタンはこのような日本の現状と全く対照的な世界です。ここには、私たちが進歩の名のもとに無用な知識で自分を退化させてきた生を根底から問う何ものかがあり、むきだしの人間の生き死にがあります。こうした現地から見る日本はあまりに仮構に満ちている。・・」

現在の世界が狂奔するコロナ狂騒。現地からどう見えるのでしょうか。中村医師の辛辣な忠言を伺いたいものです。早すぎたご逝去。返す返すも残念でなりません。

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