①南海トラフとは
トラフとは溝(窪み)のことで、この場合海底に横たわる深い溝のことです。なぜこのような地形ができるかというとプレートが他方のプレートに潜り込んでいるからです。南海トラフでは、海側(東側)のプレート(フィリピン海プレートという)が陸側(西側)のプレート(ユーラシアプレート)に潜り込み続けています。さらに下図で見るように日本の太平洋側にはほかにも日本海溝などいくつかの海溝(トラフ)があり、そこではいずれも海側のプレートが陸側に潜り込んでいます。これらトラフ沿いでは巨大地震が発生します。日本列島が地震災害列島であるのはこのためです。
今問題にしてる南海トラフですが、トラフに沿って過去何度もほぼ同じ間隔で巨大地震が起きているのです。
南海トラフ沿いには巨大地震の巣窟が3か所あります。それらを西から南海、東南海、東海と名付けており、それら震源域で起こる地震を便宜的に南海地震、東南海地震、東海地震と呼び分けます。下図はその概念図です。
現在出ている注意報は、8日に南海地震震源域の西端で起きたM7地震を契機としてこの震源域で起きる巨大地震を警戒しているわけです。南海トラフ地震が怖いのは、この3つのどの領域で起こった地震も他の2つへ連動する可能性があることです。するとたちどころにM9となり、2011年東日本大震災あるいはそれを上回るクラスになります。
③そのことに触れて2019年に文藝春秋に書かれた京大鎌田浩毅氏のエッセイを見つけました。
引用
「歴史を紐解くと南海トラフ沿いの巨大地震は、90~150年おきに発生しており緩い規則性がある。こうしたスパンの中で3回に1回は南海、東南海、東海の3つが連動してほぼ同時発生して超ド級の巨大地震を引き起こしてきた。その例として、仁和地震(887年)、正平地震(1361年)、宝永地震(1707年)がある。そして、今度の南海トラフ地震はまさにこの3回に1回の番に当たっているのである。こうした連動型巨大地震は震源域が極めて広いため、首都圏から九州までの広域に甚大な被害をもたらすと予想されている。」「この地震は2030年代の発生が予測されており、筆者も2040年までには確実に起こるのではと考えている。」「土木学会は南海トラフ巨大地震から20年間の経済的被害を最大千四百兆円と試算した。さらに加えて首都直下型地震が起きた場合の20年間の経済被害額は七百七十八兆円と試算した。けれども同時に今後道路、港湾、堤防、建物等の耐震化により、これらの長期的被害額を最大6割軽減できるとしている。」「これまで巨大地震が繰り返し起きても日本民族は絶滅することなく生き延びてきた。地球科学的に見れば日本列島で天変地異が起きるのは当たり前のことで何万年もかけて我々はそれを受け入れる能力を身に着けてきた。よって、いたずらに恐れるのでなくこの機会に地球科学の知識を纏って乗り切ってもらいたい。防災の鉄則は平時からの準備に尽きる。国も企業も個人も想定外をなくし、迫りくる国難に賢く対処することを切に願う。」
引用は以上終わり
いかがでしょうか、ここまで被害のメカニズムと被害額そしてその軽減の指針が明らかにされているのになすすべもなく被害のままに任せておくのは国や個人の怠慢であり、はじめから負け戦を認めるのは日本民族の沽券にかかわるのではないでしょうか。
防衛には二種類あります。外国の侵略からの防衛だけでなく地震災害からの防衛もそれ以上に重要です。国はこれに現在どのくらいの予算をかけているのでしょうか。緊縮財政にこだわって地震災害防衛をなおざりにするのでは本末転倒。金がないなら国債を大量発行してでも防災名目の公共事業を徹底的にやるべきです。そして原発から即座に手を引くべきです。
◎参考までに。
南海トラフ地震は海溝型地震といいます。海溝型地震はそのメカニズム上繰り返し起きることが理解できます。下図はその様子を示す図です。
海洋プレート(白矢印)が陸域プレートの下へ潜りこんでいく。海洋プレートの沈み込みにつれて陸域プレートがっ地中に折れ曲がる。折れ曲がりが限界に達すると跳ね上がって元に戻る。この跳ね上がる動きが地震と津波を発生させる。元に戻るとまたこのサイクルが繰り返されるので地震が繰り返し起きると考えられる。
参考文献「西日本大震災は必ず起きる」鎌田浩毅 文藝春秋2019年8月号