切れ字としての「し」は、「や」に比べるとかなりソフトな切れをもたらす。
形容詞の語尾に付き、終止形を表します。
例
高し、低し、面白し、白し、赤し、うれし、うらやまし、つれなし、よそよそし、・・・・・
終止形なので、切れ字として用いることができます。
一方、これら形容詞の連体形(=次の言葉へ連がって修飾する)は語尾が「き」となります。
高き、低き、面白き、白き、赤き・・・・・・。
「し」のときは切れているので、その前後の意味は無関係。「き」のときは、前後の言葉に意味の関係がある、と理解してください。ただしこれはあくまでも形容詞に対してです。では、実例です。
有名な芭蕉の句
①五月雨を集めて早し最上川
早しで切れているので、本来前後の関係はないのですが、この句の場合は、五月雨が集まって川になった、という意味の連携が読み取れます。これは、「し」がソフトな切れ字で、「や」のように強力に意味を断ち切る作用がないからです。意味としては、「五月雨を集めて早き最上川」でも通じますが、俳句としては切れ字がないので、あくまでも「し」でないといけません。
次も芭蕉の句で、「し」をもっと強力な切れ字として扱った例
②山里は万歳遅し梅の花
現代ではちょっと意味の辿りにくい句ですが、次のような句意です。
「辺鄙な山里にあっては、正月に訪れるはずの万歳がやってくるのが遅すぎる感じがしないでもない。しかし、梅の花は季節通りにに咲き始めている。」
さてこの句を解釈す時には、「遅し」が文法的に次の「梅の花」には続かないことをしっかり理解していないと、訳の分からない句になってしまいます。つまり、「山里は万歳遅き梅の花」では意味をなさないわけです。①と比べてみてください。「し」を「や」に匹敵する強力な切れ字として扱った例です。
以上で、形容詞の終止形(し)と連体形(き)の話は終わりですが、ややこしいことに、動詞の過去形をあらわす助動詞も「し」であることです。そしてこちらの方は終止形ではないのです。したがって切れ字として使えない!
例、
尋ねる→尋ねし、照る→照りし、香る→香りし
すなわちこの場合、助動詞しは連体形を表します。尋ねし道、照りし月、香りし百合・・。
では終止形は。「き」なのです。
尋ねき、照りき、香りき・・・。
形容詞の場合と全く逆であることに気が付きましたか。
表にするとこうなります。
連体形 終止形
形容詞 き し
助動詞 し き
ここで特に強調したいことは、助動詞の「し」を切れ字と混同しないようにしましょう、ということです。尋ねし、照りし、香りし・・は切れ字ではありません。
参考文献 ユーキャン俳句講座テキスト3
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昨日、友人から、江戸時代に作られたすばらしい蛍の和歌を教えてもらいました。
・はるる夜の星かと見れば松の葉にすがる蛍の光なりけり
そこで、及ばずながら、recocaも蛍の句を認めてみました。
・蛍火のあの世この世の便りかな
・蛍火や影を映して二三匹
・寂として通夜の客なし蛍の夜
・真空の闇に火ともす蛍かな
花クイズです。これ、なんでしょう(野菜クイズです。)