人類絶滅のシナリオという本

現在は地球温暖化の原因で生物大量絶滅の時代に突入しているといわれるが、この本は人類の絶滅の危機に警鐘を鳴らす本である。それも地球の天変地異など自然が原因でなく人間の営みそのものが原因で絶滅するシナリオである。

その原因は二つ。人工知能(AI)とゲノム編集(遺伝子改変)である。

AIについては10年以上前から研究が進み我々素人の目に触れない水面下で発展してきたが、それらはあくまでも個別の目的のためのAIでありいわば人間によるおんぶにだっこが不可欠だった。それが数年前から自分で学習しレベルアップするAIが登場して、将棋や囲碁では勝手に強くなっていき、今や人間が勝てなくなってしまった。さらに去年、突然生成系AIなるものが登場してあらゆる膨大な資料情報を読み込み学習してそれをベースに、人間の要求に応じて広範囲に目配りした資料を自由自在に生産することが可能となった。しかしこの段階ではまだ人間のための道具(ツール)すぎず、人間の管理下にある。それが遠からずして、AIが人間を差し置いて主体性を持つようになるのは不可避だとこの本では述べている。人工知能から超知能への飛躍。つまり、人間のあらゆる天才の知能を越えた存在としてのAIの登場。これはもはやSFではないらしい。二、三十年先の未来の話である。例えば科学の世界でいうとこのAIは人間の研究者のように、仮説を立てて実証することもできるし数式を操り論文を書くこともできる。勿論政治経済の分野も牛耳るようになる。こうなると何故人間が滅亡に向かうのか。その理由は二つある。その一つは超知能のAIが人間に歯向かうようになったとき。例えばこんなシナリオが考えられる。いま世界中の重要目標であるSDGs(持続可能な開発)。すなわち、環境を破壊せずに貧困、飢餓、紛争、教育、男女格差、経済的格差、気候変動、エネルギー問題、生物多様性などを地球規模で解決する問題である。この問題は複雑で内容が大きすぎて人の手には余るだろう。そこで人口超知能に解決を任せたとする。AIがこの目標に真剣に取り組み、出した答えが「人間がいなくなることだ」としたらどうだろう。当然あらかじめ人間の利益に反する事は考えないようにプログラムされているが、最終段階のAIになると最早制御は出来ない。この段階で目標遂行のために各種社会システム、機械、ロボット、それに兵器との連動を強めることができたとすればAIは目標達成のために人間と戦うことになる。こうなると優秀なAIに人間はもはや対抗できないであろう。

次にゲノム編集。

一言で言えば遺伝子改変の進んだポストヒューマンがホモサピエンスを淘汰する。ポストヒューマンとはデザイナーズベイビーの進化した存在である。

ゲノムテクノロジー(遺伝子改変技術)は膨大なゲノム(遺伝子情報)を解析し、人間の意図通りに書き換える最先端技術である。この技術は医療、食糧問題など多くの問題解決に資すると期待されている。その一方で人間の能力を異常にに拡張した超人間を遺伝子改変で生み出すことも可能である。生殖、生命の根源を操作する技術を手にした人類は神の領域を侵食し始めたと言えるのではないか。だんだん大胆になっていくことは目に見えている。その先に何が待ち受けているのか。優生学の論理で人間の価値がデザイナーズべビーか否かで判断されるようになる。そうなると社会的分断が生じる。そして能力的にはるかに優れている遺伝子改変人間(=デザイナーズベビー)にホモサピエンスは淘汰されてしまうことになる。

そのようなことにならないための歯止めは掛けられるのか。いまホモサピエンスは重大な岐路に立っていると言える。

以上がこの本のエッセンスである。AIや遺伝子改変。確かに負の部分闇の世界は垣間見えるがそうなればなったで何とかなるだろうとこれまで安易に考えていた愚かさを思い知らされた。確かに歯止めはあるだろう。しかし過去の人類の系譜を反省すれば、必ずその歯止めを破って自分の利益業績のために研究を加速する輩が現れる。それは覚悟しておかねばならない。そのうえで、さてどうするか英知を絞れるだろうか。