スペイン風邪考

スペイン風邪の前に、新型コロナ集団感染の件数比較。

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去年の12月以降、飲食店関係での係わりは相対的に減少している。それでも飲食店の時短要請しか能がないのだろうか。

スペイン風邪

ご存知と思うが、1世紀前1918年に生じた通称スペイン風邪は史上最大の世界流行であった。世界人口20億人の時代、感染者5億人。死亡者はすごい数で、2千万人から1億人といわれている。幅があるのはアフリカ、中国などでの死亡統計の信頼性の問題。

参照書籍は

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この本から抜き書きする 。

まず、スペイン風邪の名称であるが、スペインが発症ではない。発祥地は米国カンザス州の陸軍基地である。当時第1次世界大戦で米国は参戦中だったので、自国に不利の情報は隠蔽し、たまたま情報を発信していた非参戦国のスペインの名が冠せられた。えらい迷惑なことだったと思うけれどもそういうことです。

さて、この時期統計資料がしっかりしている米国に焦点を当てる。次の図は米国におけるインフルエンザ死亡率である。同図の点線は普通のインフルエンザ(1911~1915の平均)一方、実線は1918年のスペイン風邪による死者。なお、縦軸は10万人当たりの死亡数、横軸は死亡者の年齢である。

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まず気がつくのは、真ん中の青年、壮年期の部分を除けば子供と老人とも実線と点線で大差がない。つまりスペイン風邪ウイルスの毒性にインフルエンザと大差ないことを示唆している。第2の特徴は、青壮年での死亡率が際立って高いということである。何故もっとも壮健な世代が狙い撃ちされるのか、そんなウイルスが存在しうるのかが近年までの謎だった。

ところがこの謎に光を当てたのが米国のスタルコ医師。(2009年)原因はウイルスの強毒性ではなく、当時ドイツで新薬として開発された解熱鎮痛剤アスピリンの過剰投与説である。じつは、先の図で高死亡率を示す青壮年の大半は軍隊の兵士であった。そして、高濃度のアスピリン投与を集中的に受けたのは軍隊内の兵士に限ったことだったのである。だから、軍人でない幼児こども高齢者(彼らはアスピリン投与されていない)は相対的に死亡率が低く、通年のインフルエンザと変わらなかったのである。この説は上記の図を合理的に説明できるとして欧米の臨床医たちの支持を受けている。アスピリンのメカニズムについては省略します。米国スペイン風邪大量死は薬害であった可能性が高い。これはウイルス学者が絶対に認めたくないことのようだ、と著者は述べている。

さて、もう一つ大事なことがあります。それはスペイン風邪のウイルスの毒性について。20世紀末なんと米軍病理学研究所に保存されていたスペイン風邪ウイルスの遺伝子配列が解読特定されたのである。そうすると、かつてのスペイン風邪ウイルスと同じものが合成できる。それを動物に投与して、通常のインフルエンザウイルスと毒性がどう違うのかを実験で明らかにしたのである。動物にとっては甚だ迷惑な話だが。結果はどうもスペイン風邪のような強烈な所見は動物実験で見られなかったのである。なのでスペイン風邪のかつての凶暴さはなお謎だということになっていたところへ出たのがアスピリン薬害説だったのです。

今度の新型コロナウイルスにおいても強毒化の可能性があるから、スペイン風邪を教訓にして気を付けようという言説があるが、以上のようにスペイン風邪ウイルスの毒性が格別強かったという裏付け研究があるわけではないので、お話として承っておく程度でよいと思う。