俳句の巨匠

俳句の巨匠稲畑汀子氏が亡くなられた。91歳。現代の俳人はなぜか皆長寿である。稲畑氏は朝日新聞の俳句欄朝日俳壇の選者4人の一人で1982年から40年務めたというからすごい。私は朝日俳壇の愛読者だが、稲畑氏選の入選句が一番平明で理解しやすく心にしっくりくるものだった。今年の一月に選者を引退されたばかりの訃報だった。

同氏の祖父は、俳句の巨匠高浜虚子である。虚子は明治時代の正岡子規の弟子で最古の俳句雑誌で現在も続いている「ホトトギス」創刊に関わり主宰を務めた人。その後虚子から稲畑氏の子息まで4代にわたり主宰が一子相伝で引き継がれている稀有な俳句結社である。

現在、たまたま正岡子規の著書「仰臥漫録」を読んでいるが、その中に高浜虚子の名が頻繁に出てくる。この本は脊椎カリエス結核が脊椎など全身に罹患する難病)で寝返りも打てず寝たきり状態の子規の闘病記である。この時すでに子規の両肺は空洞に。そしてカリエスの膿の痛みに耐えながら、雑誌ホトトギスへの俳句選句や毎日訪れる高浜虚子など見舞客の応対などとても瀕死の重病人とは思えない気力に胸を打たれる。そんな子規唯一の楽しみは「食べること」。胃腸はとにかく丈夫だったようだ。仰臥漫録には三度三度の食事や間食の内容が事細かに記録されている。とてもじゃないが寝たきり重病人の食欲とは思えない。ある日の食事は、例えばこんな感じ。

朝食 ご飯4杯、あみ佃煮、はぜ佃煮、すいかの奈良漬け、牛乳1合、餅菓子1個半、菓子パン、塩せんべい

昼食 マグロ刺身、くるみ、奈良漬、味噌汁、梨1個

間食 ブドウ、おはぎ2個、菓子パン、塩せんべい

夕食 お粥3杯、キャベツ巻き、八つ頭、さしみ、奈良漬け、あみ佃煮。ブドウ13粒

看病は母親と妹さん。来客毎日数人、彼らと食事も共にしている。結核は空気感染する。見舞客も看護人も感染のリスクを負いながらの頻繁な接触。感染しなかったのだろうか。