史上空前の地球温暖化・5600万年前のこと

NHKTV「地球ドラマチック」から

5600万年前というと、隕石衝突による恐竜絶滅が6000万年前だからほぼ同じ時期のこと。地球大異変の時代だったといえる。何の異変かというと超温暖化。この時代、つまり5600万年前の地球は、突然温室のような温暖状態になった。1万年間に平均気温が5度上昇。この規模の気温上昇は地史的に見て空前絶後といわれる。理由は多くの火山爆発による大量の温室効果ガスの噴出である。1万年に5度の上昇は生き物にとってあまりに過酷だったといわれる。この環境激変に対して動植物に何が起こったかを化石から読み解いて、現在の地球に起こっている温暖化の先に何が起こるかを見通す研究が進行している。ところで、現在の地球で起こっている温暖化の進行はこんな規模ではないことに十分留意する必要がある。気温上昇速度は5600万年前のペースの実に10~100倍だそうである。これにはいろんな原因があると思われるが、人間の生産活動もその大きな一因である。その意味で我々は生存をかけて真剣に取り組む必要がある。

さて、5600万年前の温暖化をPETMという特別な名で呼ぶ。これは、暁新世・始新世境界温暖極大イベントの略である。PETMは20万年の間継続した。そしてとくに注意すべきことは、現在人間が引き起こしている炭酸ガス排出ペースが続けばあと200年でPETMの状態になるということである。なってからでは遅い。覆水盆に返らず、と世界の為政者や識者がどのくらい真剣に考えるかに人類の未来はかかっている。

 PETMの時代、南極にも樹木が茂っていた。海水の温度も上昇した結果海水の酸素濃度が下がり魚が住めなくなった。陸上でも生態系のバランスが大きく変化した。恐竜絶滅後繁栄を開始した哺乳類は極度の温暖化による食糧難で体形が著しく小型化したことが化石から読み取れる。PETMの始まりとともに森林が消え亜熱帯の乾燥地帯へ変化した。これは近未来の人類の環境食糧事情にも大きな影響を及ぼすだろう。あと200年のちのことである。また、植物は炭酸ガス濃度が高まると含有する窒素濃度が減る。窒素は動物にとって生存に必須の栄養素である。植物の葉に窒素が少ないと昆虫が余計に葉を食べるようになる。つまり虫食いの増加。これは野菜も同様の被害を受けることを意味している。実際PETM時代の葉の化石は虫食いだらけなのである。あと数十年後、世界の人口は100億人といわれている。史上空前といわれるPETMを凌ぐかもしれない200年後の超PETMに100億人類はどう対応できるのだろうか。