今朝の朝日新聞コラム天声人語にAI俳句に言及した記事が掲載されていた。AI俳句については私が俳句を始めたばかりの2015年にネットで検索したことがある。その結果は全く俳句の形はおろか日本語としても支離滅裂の印象だったと記憶している。ところが今朝の記事を見ると格段の進歩を遂げているようだ。紹介されていたのは、北海道大学情報科学科で開発されている俳句ソフト「AI一茶くん」。江戸から現代までの名句と季語にちなむ写真を覚えこませ、ディープラーニングの手法で自学自習させる。句題か写真を示すとそれに即した俳句を詠むことができるようになっている。はじめはでたらめだったが驚くことに3か月で味わい深い句を出力するようになったとか。RECOCAなんか5年経ってもこの程度だから学習速度は当然ながら到底及ばない。出力速度はなんとい時間当たり14万句というからすごい。ただし今のところ相当な玉石混交らしい。
一茶君の例句
・初釜やいまぞ生きよと富士の土
これは素晴らしい句ではないか。ただし、RECOCAなら富士の山としたいがどうだろう。俳句では切れ字「や」の前後は論理的つながりのない語を持ってくるのが定石だが、そのことをしっかり理解している。
新年の句でもう一つ。
・空青く子供育てし注連飾り(しめかざり)
この句はRECOCAには高尚過ぎて理解不能。
一茶くんが学習3か月目で詠んだ下記句がなかなかの「味わい深い」句だと思った。
・又一つ風を尋ねてなく蛙
一読して何のことかわかるようで分からないのでよく味わう気にさせるのがいわゆる「味わい深い句」だと勝手に定義している。この「分かるようで」というのがみそで、頭からちんぷんかんぷんの印象を与える句ではだめ。その兼ね合いが微妙なところ。
さらに一茶君、極め付きの名句と思ったのはこれ。
・初釜やひそかに灰の美しく
華やかな新年茶会の情景を炉の灰の美で表現するなどRECOCAの到底及びもつかぬ領域に進化している。恐れ入りました。ただし、「ひそかに」は炉の情景とか灰の状態を表す語に変えたほうが良いと思う。茶の湯の経験がないので私には何も浮かばないが。
さらにネットを見ていたら、一茶君と人間の対抗句会の模様があってこれにもなかなか興味を惹かれる。その句会の10句がこちらです。句会のルールは各句最後の2文字を次の句の頭に持ってくるしりとり形式で人間とAI一茶くんが交互に詠む。
- 金葎(かなむぐら) 屍の跡へ 置く小花
- 花蜜柑 剥く子の道の 地平まで
- 馬蛤貝(まてがい)の 波につまづき 潮に巻く
- 撒くといふ 言葉正して 花見ゆる
- 許しがたい 臭いを 放屁虫
- 無人とは 毛深きなりし 狸かな
- 仮名の裏 がえりをそむ子人ら 梅雨晴間
- 山肌に 梟のこげ 透きとほる
- ホルン吹く 放課後の 大夕焼けかな
- かなしみの 片手ひらいて 渡り鳥
上記、奇数が人間、偶数がAI一茶君です。どうでしょう、一見して区別つきませんですよね。ちなみにこの10句の中の最優秀句には一茶君の第10句、かなしみの~が選ばれたそうです。
こうしてみていくとAIは人の感性の分野でもやがて人を凌駕する水準に達するのはそんなに遠い先ではないように感じました。AI俳句はもとより、短歌、詩、小説、エッセイにもAI何とかさんの作品がそのうち現れるのではないでしょうか。