オタマジャクシはナマズの子ではない

慶応大学医学部の近藤誠先生というお医者さんをご存じですか。去年亡くなられましたが、世の一般のがん外科医ががんを見つけると根こそぎ切除する治療に異を唱えられて医学会から疎んじられたにもかかわらず、医者や薬屋の金もうけを排した患者の側に立った医療を提供してこられました。その先生の持論は「がんもどき説」の提唱です。一言でいえば、がんには転移をするほんもののがん、と転移しないおとなしいがんがあり、さらには消えてしまうものもあるという説です。だから、健診で見つかる無症状のごく初期のがんを急いで切り取る必要はない。無用な外科手術になる恐れがある。本物のがんは目に見えない初期にすでに転移してしまっているから、急いで切り取る意味はなく、症状が出るまで様子を見ればよい、という一般常識の真逆のものでした。私は近藤説は非常に説得力があるあると思っています。しかし、いかんせんその他の医者は全く相手にせずがんもどきの真偽は判然としません。

ところが、精神科の先生で遠山高史氏という方がおられますが、著書にがんもどき説に近いことが書かれていて驚きました。がん専門医以外のお医者さんの中には案外そんな考えをお持ちの方がおられるのかもしれません。

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医者が勧める不養生(下)遠山高史から

カギカッコ内⇒引用

「たとえば、早期のがんは将来本当に癌になるのかと言ったことについて考えてみよう。早期でも癌は癌だから癌になるに決まっているというのは、おたまじゃくしはなまずになると主張するのと同じである。(外見が似ているから)異形の細胞を見つけて早期がんと名付けても、将来癌になるとは限らず自然に消えてしまうものも決して少なくないのである。ただ、日本の癌学者たちはこの点についてあまり語りたがらない。理由は早期がんが本物の癌かどうかを定量的に示す研究がないからである。

子宮頸癌についてはニュージーランド疫学調査がある。集団検診によって子宮頸部の早期がんと診断されながら、治療を受けなかった女性を20年間追跡調査研究である。このような女性750人のうち子宮頸がんとなった者は10人(1.3%)しかいなかった。しかも、健診で見つけられた早期がん(上皮内癌)から本当の癌に進展したと認められたのはたったの2例しかなく、他は当初の早期がんとは関係ない箇所で発生したものだったのである。上皮内早期がんの病理所見と発達した子宮がんの病理所見が似ていることから、オタマジャクシはナマズの子と思われたのではないだろうか。」