復習ですがPFASとは人工的に作られた有機フッ素化合物の総称です。いろんな化合物の組み合わせがあり、その種類は1万種と言われています。フッ素と炭素の結合が極めて強く分解しないのが特徴で永遠の化合物、魔法の物質、別名悪魔の化合物とも呼ばれることがあります。実際、PFASの性質は水油をはじき熱に強いために、その製品はとても便利な生活を支える身近な多くのものとなっています。(例半導体、防水服、泡消火剤、包装紙・・)
これらの製品が私たちの手元に届くきっかけとなったのは、デュポン社が世に出したテフロン加工のフライパンです。焦げ付かないので洗い物の手間が省けるということで大ヒット商品になりました。
ところが状況が一変したのは2000年代に入ってから。突然これらの製品の発売を中止してしまったのです。おそらく内部調査研究で健康や環境に有害であることを把握したからだと思います。なので現在販売されているフライパンはセラミック加工などでPFASは含まれてないとNETなどに書かれていました。しかし長年製造され続けたPFAS原料は工場などから廃水となって河川、土壌に浸透し、まわりまわって水道にも含まれるようになっている現状です。分解されずに環境汚染が進行するのはプラスチック公害と同じですが、PFASには加えて非常に厄介なのは重大な健康被害の懸念があることです。WHO(世界保健機構)は昨年そのことに関連し、PFASのうちの3種類(PFOA,PFOS,PFHXS)について製造、製品使用を禁止するように声明を発しました。この3種のPFASには発がん性が認められたからです。米国の学術団体の発表によると、上記のPFASの長期暴露によって腎臓がん、脂質異常症、抗体反応低下、乳児胎児の発育低下がみられるとされています。この指摘は単なる脅しなんかでなく実在する危険であることが疫学研究で明らかになった国が実はあるのです。それはイタリア。イタリアのケーススタディについては後日稿を改めることとして、今回は日本における環境汚染の一端を以下に示すことします。(出典:NHKスぺシアル)
日本でもPFASの環境汚染が10年以上前から環境省によって注意喚起され、各地で河川土壌、地下水でPFASの有無や濃度が測定され始めました。我が国で初めて土壌や水道水から基準値を超える濃度が検出されたのは2016年沖縄です。日本では上限の暫定目標値として50ng/l(ナノグラム=10億分の1)とされていますがそれを上回る値が検出されたのです。観測値も分布から汚染源は泡消火剤使用経験のある沖縄米軍基地内が濃厚なのですが、米軍との地位協定が邪魔してそれ以上調査が進まず現在まで発生源の特定に至っていません。本土では多摩東部の米軍横田基地近辺の浄水井戸。ここでも同じ理由で汚染源は特定されていません。一方、岐阜県各務原市では調査結果から自衛隊基地が疑われていますが内部の調査には応じていません。大阪のある地区では土壌や井戸地下水の汚染源がPFAS製造工場のダイキンと特定され補償の話し合いに入っています。岡山県吉備中央町では水道水の高濃度汚染に加え町民有志の血液検査では長期暴露で危険とされる値を大幅に上回っていることが確認された。
これら自治体の測定結果を取りまとめた国の報告は2020年から出されています。それによると2023年までに国の基準値50ng/lを超えた地区は14か所ありました。(長野市、渋川市、東京多摩東部、京都府、大阪、宝塚、福知山、岡山吉備町、兵庫西脇市)この14か所を地図に表した図が以下です。
さらに、全国の汚染状況を地図に表したのが以下の図です。地図上の色分けは次の通りです。赤=国の基準値50ng/lを超えた地区、黄=基準値以下(ゼロではない)、青=ゼロ、なお九州地区の汚染はほとんどありません。
但しまだ36市町村の観測がされていないので最終的に赤色が増えるかもしれません。
不思議なことに国は汚染源については90%以上不明としていることです。はじめから究明する意欲が乏しいこと。汚染源の特定なしに汚染を止めることが可能なのでしょうか。
さらに大きな懸念があります。現在のところPFASのうちとりあえず健康被害の大きいことが判明した3種類のみ規制を行ったということで、全体が1万種もあるその他のPFASについては今後順次規制の必要性が明らかになってくるということです。つまり、その広がりの全体像はいまだ闇の中という状況なのです。