年末印象に残るTV番組から

TVは録画しか見ません。それが、年末正月三が日などの時は特別番組に入れ替わって当て外れの感じになることがしばしばです。

しかし、年末思わぬ好番組に遭遇しました。⇒「悪魔の兵器はなぜ作られたか」NHKスペシヤル 悪魔の兵器とは原爆。ご存知と思いますが第2次大戦末期、米国の最優秀の物理学者が大勢砂漠の俄か都市に缶詰になって開発に専念させられました。予算は膨大、しかも秘密裡プロジェクトのため議会未承認のままでです。

今回この番組制作のため、NHKによる多数の生き残りプロジェクト関係者、特に技術者にインタビユーが行われ、その肉声で番組が構成されていました。

結論を端的に述べると、まず印象に残るのが、科学者の名誉心です。膨大な爆発エネルギーを取り出すには起爆の正確な同期が必要でそれも誤差百万分の2秒だそうです。これを実現して後世に名を遺す「名誉心」が悪魔の兵器開発の大きな支えでした。

原爆を大戦末期のこの時期に急遽米国が保有する意味と動機、大義名分はなんだったか⇒ナチスドイツに先んじて保有するためです。ナチスドイツはすでに原爆開発に着手しており間もなく完成し実戦投入の見込みという極秘情報がCIAによってもたらされていました。焦った米国大統領ルーズベルトの極秘大号令のもと、当時原爆兵器開発に懐疑的だった科学者もこの大義名分によって賛同し、開発に走り出さざるを得なかったようです。ところが実はこの情報は誤報でした。ドイツは予算の関係で原爆開発を既に放棄していました。米国が開発着手する時点ではすでに原爆開発をやめていた。つまり、米国はないものの恐怖のために大量殺りく兵器開発に死に物狂いで走りだしたのです。この構図は、イラク空爆の論理と同じですね。本当に同じことの繰り返し、後世は何物も学んでいないことがよく分かります。

さて、ナチスの原爆保有がないとなると、米国の大義名分が消えます。実際、この時点で多くの科学者がこれ以上の開発促進の中止を訴える集会を開き、リーダーもその方向に傾きかけました。ところがここに新しい大義名分を捏造する救いの神が現れました。たまたまヨーロッパから旅行にやって来たノーベル賞物理学者ニールス・ボーアです。彼のアイデアによる新しい大義名分=悪魔の囁きは次のようなものでした。「核兵器の脅威を見せつけることによって、人類が戦争を始めることに躊躇させ、ひいては世界から戦争をなくすことができる。」開発リーダーはこの大義名分のすり替えに飛びつき、反対する科学者たちを強力に説得して開発を継続させました。

この大義名分のメッセージは、大戦終結後実現したでしょうか。核保有は拡散したが、戦争は一向になくなっていません。空疎な机上の空論でした。

時は過ぎ、ドイツが降伏して相手は日本だけになりました。そして日本の降伏直前、ネバダ砂漠の原爆実験は奇跡的に成功した。さて、実はこの時点が兵器としての実戦配備を止める最後のチャンスでした。原爆のあまりの威力を目の当たりにした現場の科学者から、実践配備でなく新型爆弾の威力を日本に公表して戦意喪失させるにとどめるべきだとの進言が出されたのです。しかし、プロジェクトリーダーははっきりとNOの決断をした。理由は戦後の自身の保身のためです。膨大な原爆開発費を秘密裏に投入した責任者としては、国民の目に見える分かりやすいプロジェクト成功の印を示すことがぜひとも必要でした。それは、日本への投下しか選択肢がなかった、というのが言い分です。日本が降伏しそうになったので、あわてて2発投下した。

戦後、原爆投下の新しい大義名分として、「日本を早期に降伏させるためやむを得なかった」という言い方をしていますが、経緯を見れば嘘っぱちです。あくまでも、米国世論を納得させるための行為だったと受け取れます。

そして、目論見は成功し、彼は英雄となった。戦後、現場の惨状を見せられてのインタビユーが流れていましたが、何ら後悔の言葉は発していません。さらに兵器産業の会社を立ち上げ、近代兵器の製造販売で莫大な利益を上げるに至っています。

ちょっと思いましたが、惨状への同情心がないのは相手が非白人だったからではないか、仮に日本とドイツが逆の立場だったら、果たしてドイツに原爆投下しただろうか、なんてことを思いました。番組では淡々としたインタビユ―が中心で良し悪しの判断は一切なし、これを見た視聴者に任されています。これは俳句の手法だなと思いました。俳句では、事実描写のみ、喜怒哀楽の感想は読者に委ねるのが一般的です。