物の善悪は人間次第

学術会議が日本国内での兵器の研究を禁止していますが、その方針は間違いだと思います。「物」自身に善悪の区別はないからです。人による使い方ひとつで善にもなるし悪にもなる。このことは技術開発の歴史を見れば明らかなことです。こんな愚かな関門を設けていると、ただでさえ国の科学技術に対する予算的冷遇に加えて戦略的にも後れを取って早晩科学技術後進国になるのではないでしょうか。原子核反応は悪魔の兵器にもなるかわり、電力という平和利用も出来ます。近代兵器の草分けダイナマイトもしかり。また戦前日本発明の画期的民生技術である指向性アンテナ(通称八木アンテナ)は、日本が気づかないうちに欧米でレーダーという兵器に応用され、そのため日本攻略に決定的役割を果たしました。これは、いうまでもなく戦後はレーダーはもとよりTVアンテナとしても世界中で応用されています。

さて、それらに追加して今回は、戦前日本において当初兵器目的で開発された技術が、ひょんなことから民政、それも日本人の長寿という一億日本人すべての恩恵に資する効果をもたらしたというストーリーを紹介したいと思います。(参照本:日本史の謎は地形で解ける・文明文化篇pp63~77、竹村公太郎、PHP文庫)

その技術とは、核兵器に並ぶ悪魔の兵器毒ガスです。大正時代、ある民間化学工業会社が陸軍から、水素を原料とする毒ガス製造を依頼されました。シベリア出兵に際して携行するためです。気体のままでは持ち運べないので、液体水素にする技術を開発して毒ガス兵器を完成させました。ところが諸般の国際情勢の変化からシベリア出兵はすぐ終わってしまったので、大量の毒ガス用液体水素が余ってしまいました。そのお余りの液体水素の民生への利用が劇的に日本人の寿命を延ばすことになったのです。どこへ使ったかというと、丁度日本に普及し始めた水道水の殺菌です。これは劇的な効果を表しました。まず乳児死亡率の急激な減少。それに反比例した日本人平均寿命の急激な増加です。以下のグラフをご覧ください。乳児死亡率の数字は千人当たりの数字です。(出典・上記書籍)

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これは上水道普及だけの効果で、塩素殺菌は関係ないのでは、と思われるかもしれませんが、実はそうではないのです。上の図をよく見ると、水道敷設の明治33年から大正10年までの間、乳児死亡数が増えています。そのせいで平均寿命も低下傾向にあります。この期間がまさに水道水無殺菌期間なのです。なぜなら、水道水の水素殺菌は大正10年から開始されたからです。それと期を一にして乳児死亡が劇的に減少し始め、同時に平均寿命はうなぎのぼりに上昇し現在に至っています。

現在の日本の水道水の素晴らしいところは、水源から蛇口まできめ細かい水質管理がされていることで、その根幹は塩素消毒です。その技術の源は毒ガス兵器だったのです。人間の知恵と品性次第で物は悪にも善にもなる、の典型の一つだと思いました。ちなみに液体水素による水道水殺菌を発案したのは、当時の東京市長後藤新平氏です。同氏は奇遇なことにシベリア出兵時の外務大臣であり、しかも水素殺菌に精通した細菌学者でもあったのです。