無口の老人を演じたら天下一品の名優「笠智衆」

笠智衆(1904~1993)今年2024年は生誕120年。これを記念して晩年の笠智衆主演のTVドラマが4本まとめて放映された。放映されたのはケーブルTV日本映画専門チャンネル。オリジナルはいずれもNHKTV放映ドラマ。①ながらえば(1982年放映)②冬構え③今朝の秋④春までの祭り(1987)。私は①に特に感銘を受けつつ鑑賞した。笠智衆主役の老人。無口であるが、自身の夫婦愛についてぶっきらぼうにぽつりぽつりと出る言葉をよくかみしめると優しさを秘めたその心情があふれている。昔気質の老人で、今風に言えばコミニュケーション能力不足の性格と言えるのかもしれない。それが原因で周りの身内には全く理解されず、いろんな行き違いが生じるというのがドラマの筋立てだ。こういう無口で何考えているか分からない人間というシチュエーションは饒舌な西洋文化にはなじまないはずと思うのだが、なんとこのドラマ、モンテカルロ国際TV最優秀賞に輝いている。もう一つ私がこのドラマでひきつけられたのはロケーション設定が名古屋であること。主人公はじめ身内の人々は生粋の名古屋人のためドラマは最後まで名古屋弁で推移する。そして、1982年当時の名古屋駅前のロータリー風景がいきなり飛び出して懐かしさに録画映像を止めて見入ってしまった。さらに当時の駅プラットホームでの新婚旅行の見送り風景。ドラマに無関係の単なる駅頭風景だが、こういう万歳三唱の見送り、これは確かにこの通りで自分の記憶通りだ。

さてこのドラマのクライマックスは、笠智衆演じる主役の老人が名古屋で入院中の老妻を富山から見舞いに行く途中、手違いで一晩逗留した富山の山奥の旅館の老主人(宇野重吉)と短い言葉を絞り出すように語り合う場面。ここで始めて普段の振る舞いと裏腹に、妻に対する深い愛情が最小限の短い言葉で明らかにされる。それに感銘を受けた旅館の老主人は名古屋までの旅費2万円を貸すことに同意する。実は主人公は事情があって文無しで旅行中だったのだ。

実際のドラマの内容は以下の動画を参照されたい。見て損のないドラマだと思います。出演者 笠智衆長山藍子、中野誠也、佐藤オリエ宇野重吉

次のドラマ「冬構え」は老人の自殺願望がテーマ。終活を一切終えた老人はその総括として預貯金すべて携えて自殺目的の旅にでる。その途中で会う人々にいろんな名目を作って持参の金銭を手渡していく。それを奇異に思う人々との触れ合いが面白い。

「今朝の秋」のテーマは癌告知と余命の過ごし方である。このドラマの頃1980年半ばは確かに現在ほど患者に対する癌告知は一般的ではなかったと思う。

笠智衆演じる老人の息子は癌入院中。しかし誰からも真の病状を告知されていない。しかし本人は薄々感知しており、必死に問い詰めた母親に泣きだされてしまったことですべてを悟る。父親(笠智衆)は状況の一切を解決するために、病院から無断で息子を連れだし最後の旅行を試みる。場所は父親の居住する蓼科高原。自然を思う存分満喫した息子。そこへ親族が合流して最後の盛大にして静かな大宴会になる。つまり、余命が決まれば病院なんかでうじうじするのでなく、有意義前向きに自分の人生を全うしてはどうだろうかという提案がこのドラマの骨子である。

「最後の「春までの祭り」は1987年笠智衆最晩年の主演ドラマ。嫁と嫁入り先婚家との関係がテーマ。両者の関係は当時現在ほどドライではなかったのだろう。夫が他界しても嫁は婚家を離れないというのが貞淑な妻というイメージが一般的であったのを、笠智衆演じる老舅がそれは違うとモダンな思想で嫁の肩を持つ流れだが、ドラマとしては前3作ほどの感銘は受けなかった。

ながらえば

1982年名古屋駅前風景

新婚旅行見送り風景

名古屋から息子の富山赴任同行

名古屋域の途中下車で立ち寄った富山の山奥の駅

感動的な会話





◎詳しい内容紹介動画をネットから借用
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